みちびき CLAS 「今期・元期 ジオイド」高精度測位のキーワード

みちびき衛星により、センチメータ精度の測位が誰でも簡単にできるようになっています。
例えば、CLAS方式GNSS受信機セット【TakionCM001】を購入すると、従来のGPS受信機と同じように使えて、センチメータ精度の座標が取得できます。

購入後、試してみたくなるのが、本当にセンチメータの精度が出ているのかの確認です。
すぐに思いつくのは、三角点の上にアンテナを載せて、三角点の緯度経度と比較する方法です。
実際に試してみると、表示される緯度経度高度と三角点の緯度経度高度は合いません。不一致の量は緯度経度は数10cm、高度は数m程度で、日本の場所により違ってきます。

水平方向の不一致は今期・元期の違い

何故、座標が合わないのかですが、水平方向に関しては、座標の基準となる日時が違うためです。
プレートの動きや地震により地面は動いていますので、地球に固定した点からみると、三角点の位置も日々変化します。
それで、三角点の座標はいつの時点の位置なのかが問題となりますが、三角点など日本国家の座標の基準日は元期(げんき)と言い、都道府県により2種類あります。
次の地図が都道府県毎の基準日で、オレンジ色の地域は東日本大震災による変位が大きかった地域です。

一方、みちびきのCLASデータによる測位で取得される緯度経度は測位した時点の緯度経度で、今期(こんき)座標と呼ばれています。
元期と今期では11年もしくは25年の差があり、その間の地殻変動の分だけ、座標の値が違ってくることになります。

三角点の他、地図も元期の位置に基づいて作成されていますので、測位した軌跡等を地図上に表示すると、地図とも合いません。
この問題は以前から存在し、測量分野では知られていたのですが、一般には知られていませんでした。
それは、通常のGPS受信機の精度が1~10m程度ですので、地図と違っていても違いが判らなかったためです。しかし、センチメータの精度で測位が可能になると、違いを意識しないと辻褄が合わなくなるようになりました。

なお、センチメータ精度で測位する技術としてRTKという方法がありますが、RTKで測位した座標に関しては、元期と今期の両方があります。
RTKでは基準局との相対的な位置が求まりますので、基準局の座標が元期の場合はRTK測位した座標も元期となり、今期の場合は測位した座標も今期となります。

今期から元期への座標変換

三角点や地図と合わせるためには、CLAS測位したデータを元期に変換する必要があります。
今期と元期の座標の違いは地殻変動等によるので、日本各地で移動量が一様ではなく、それぞれの地点で補正量が変化します。
その補正量は、国内の電子基準点の観測データを元に、メッシュ状に求められ、国土地理院のサイトでファイルとして提供されています。

そのファイルは定常時地殻変動補正サイト POS2JGDで取得でき、また、このサイトでは座標の変換も行えるようになっています。
ファイルは3カ月毎に更新されていて、3カ月間の地殻変動の誤差内で、測位した位置を求める事ができます。

また、セミ・ダイナミック補正のサイトでも補正用のファイルをダウンロードしたり、座標変換が行えます。
こちらは1年毎の更新で、公共測量や土地の測量などにおいては、こちらのサイトを利用する必要があります。

GPS受信機のログデータの座標変換

GPS受信機で測定した走行軌跡のデータは一般的にはNMEA形式で保存されます。
このNMEA形式で保存されたファイルの座標を元期にするのは、弊社のサイト今期・元期座標変換ツールkon2genで行う事ができます。
このサイトではNMEA形式のファイルを一括して変換し、NMEA形式もしくはCSV形式で保存できます。

垂直方向の不一致はジオイドモデルの違い

垂直方向の不一致は、GPS受信機で使われているジオイドモデルと国家座標で使われているジオイドモデルが違うためです。

GPS受信機で測位した時、高度は次の図の楕円体高として取得されます。
通常使うのは標高であり、標高を求めるには楕円体高からその地点のジオイド高を差し引く必要があります。

ジオイド高はその地点の周りの地質や地形に応じて変化しますので、単純な関数では求める事ができず、ジオイド高もメッシュデータとして地理院のサイトからダウンロードできます。
メッシュデータや関数の形で表したジオイド高はジオイドモデルと呼ばれますが、この地理院のジオイドモデルは「日本のジオイド2011」という名称です。

GPS受信機ではメーカにより使われるジオイドモデルが違ってきて、例えば、u-blox社のGPS受信機ではEGM96というジオイドモデルが使われています。
このジオイドモデルが違うので、垂直方向の不一致が発生します。

ジオイドモデルの変換

垂直方向の不一致をなくすには、ジオイドモデルを受信機のモデル(例 EGM96)から「日本のジオイド2011」に変換する必要があります。
変換の手順は
1.GPS受信機での楕円体高を取得
2.緯度経度の地点のジオイド高を取得
3.標高 = 楕円体高 ー ジオイド高 で標高を計算
となります。

1.GPS受信機での楕円体高を取得
お使いのGPS受信機のモニタ画面等で楕円体高が直接表示される場合はその楕円体高を使います。
楕円体高が表示されない場合、楕円体高を知る方法としてはNMEA形式のデータを使います。
GPS受信機とパソコンを接続し、ターミナルソフトでGPS受信機からのデータを表示すると、通常はNMEA形式のデータが表示されます。また、ログ保存すると保存されたファイルは通常はNMEA形式のデータで保存されます。
そのNMEA形式のデータのうち、GGAセンテンスに高度に関するデータが格納されています。

GGAセンテンスは次の形式で、このデータの標高とジオイド高を足したものが楕円体高となります。
このデータの例では、119.294 + 33.381 = 152.675mが楕円体高となります。

2.緯度経度の地点のジオイド高を取得
国内の地点のジオイド高は国土地理院のサイトジオイド高計算で取得する事ができます。
上記のデータの例では、
緯度:3447.2772515(度分単位) → 34 + 47.2772515 / 60 = 34.7879541917(度)
経度:13500.6307649(度分単位)→ 135 + 0.6307649 / 60 = 135.0105127483(度)
でのジオイド高は36.938mが得られます。

3. 標高 = 楕円体高 ー ジオイド高 で標高を計算
上記の例では
152.675 - 36.938 = 115.737mが「日本のジオイド2011」 での標高となります。

高精度が故の問題

みちびきでCLASデータが配信されるようになり、通常の安価なGPS受信機と同じ使い方で、センチメータ精度で測位できるようになりました。
通常のGPS受信機の精度は水平方向は数m、垂直方向は10m程度の誤差があり、上記で述べた座標の不一致は精度の範囲内に隠れてしまいます。
そのため、「今期・元期 ジオイド」という言葉は知らなくても支障はありませんでした。

しかし、センチメータの精度では、用途によっては常に意識しないといけなくなり、高精度になったが故の問題と言えます。
厄介なのは、座標や標高の値には、「今期・元期 ジオイド」の区別が書いてない事です。
例えば、ドローン等の制御に使う場合、操縦側とGPS受信機側で同じ基準の座標を受け渡しする必要があり、システムの設計時に統一するか、座標以外にどの基準か伝える必要があります。

精度が上がると、その精度を前提にした応用がされるようになりますが、システムを設計する場合は 「今期・元期 ジオイド」 による間違いが起きないように配慮する事が求められます。