u-bloxのZED-F9Pを搭載した弊社のRTK受信機M5F9Pを使い、高速道路を走行した時のRTK性能をテストしました。

基準局として、弊社の固定の基準局の他に、ソフトバンクの独自基準点(以下、ソフトバンク基準局)も利用し、2つの基準局での測位結果の差を取る事により、基準局から距離が離れた場合の誤差がどうなるか調べました。

1.テスト方法

[ジオセンス基準局]

弊社(三木市)屋上に設置したアンテナ + M5F9Pで取得したデータをNTRIPキャスタ( rtk2go.com/geosense_f9p_rtcm )に転送。
基準局の詳細は善意の基準局参照。

[ソフトバンク基準局]

ソフトバンクの高精度測位サービス「ichimill」(ALES「センチメートル級測位サービス」) で使用されているソフトバンク基準局とNtrip配信を活用。

[移動局]

アンテナはANN-MB-00を使用し、スプリッタにより、2ないし3台のM5F9Pモジュールに分配しています。
各基準局のNTRIPキャスタとの接続は、モバイルルータMT100にWifi接続して行いました。

アンテナ移動局外観

アンテナ移動局外観

[コース概要]

ルート区間状況三木市基準局からの直線距離測定日時
岡山IC~三木市トンネルの多い高速道路0~103km2020-07-30 11:05~12:39
三木市~彦根ICトンネルの少ない高速道路0~127km2020-08-30 10:57~12:30
彦根IC~三木市トンネルの少ない高速道路0~127km2020-08-30 12:40~14:26

コース概要

コース概要

2.走行結果

[FIX状況]

RTKではFIXするかどうかが大きな問題ですが、次の軌跡はそのFIX状況を表しています。
緑色がFix、黄色がFloat、赤は単独測位の状態を表しています。
左側の軌跡は基準局がジオセンスの場合、右側は基準局がソフトバンクの場合です。

ルート基準局:ジオセンス基準局:ソフトバンク
FIX状況FIX状況
FIX状況FIX状況
FIX状況FIX状況

これら3つのルートでは、ジオセンスの固定の基準局から約100kmの範囲ですが、大体FIXしています。
距離が遠くになるとFIXしにくくなるのですが、100km程度の範囲ではFIXはするようです。
FIXしない場合はトンネルや跨道橋があるところで、幅の狭い歩道程度の跨道橋でもFloatになります。

次の表はFIX率で、山陽道が名神に比べ10%以上悪いのはトンネルが多いからです。
比率 = ジオセンスのFiX率 ÷ ソフトバンクのFIX率

FIX率
ルート基準局:ジオセンス基準局:ソフトバンク比率
1.岡山IC~三木(山陽道)67.7%75.7%0.89
2.三木~彦根IC(名神)80.8%90.7%0.89
3.彦根IC~三木(名神)83.4%87.7%0.95

基準局から遠く離れていてもFIXはしますが、Fixし難くなっている事は確かです。
次のグラフはジオセンスの基準局から50km付近のFIX状況ですが、ソフトバンクと比べてもそれほど変わりません。

FIX状況

しかし、彦根IC付近で距離が127kmの地点では次のグラフのように明瞭な差が出ます。
基準局がジオセンス(固定)の場合、跨道橋等でFloatになった後、FIXするまの時間が1分以上かかる場合が出てきています。
ソフトバンクの場合は数秒~10秒程度でFIX状態に戻っています。

FIX状況

[精度]

基準局から100km離れていてもFIXはしますが、精度は悪くなります。
ZED-F9Pの仕様では精度は次式で表されます。
精度 = 10cm + 1ppm x 基準局との距離
即ち、基準局と10km離れるに従い、精度は1㎝ほど悪くなり、100km離れていると約20cmほどの精度となります。

実際にはどうなのかですが、時速100kmで走行している車の位置を正確に測定する事は困難ですので、今回はソフトバンクの位置が正確なものだとして、精度を求めました。

このソフトバンクの位置が正確なものだとする前提ですが、岡山IC~三木(山陽道)を測定した際、別のRTK補正データ配信サービスも受信してます。
その別の会社のサービスとソフトバンクのサービスで得られた位置を比較したところ、FIXした時の座標は全範囲にわたってその差は3cm程度以内でした。
その事からソフトバンクの位置を基準にしても、それほど大きな問題は無いと考えました。

次のグラフはジオセンス基準局を使った時の座標値からソフトバンク基準局の座標値を引いた値で、赤の距離はジオセンスの基準局(固定)からの直線距離です。
3つのグラフがあり、上から、東西方向、南北方向、上下方向の誤差を示しています。
グラフで緑の点がFIXしている際の誤差で、途中途切れているのはトンネルや跨道橋によりFixしなくなった事を示しています。

●岡山IC-(山陽道)-三木間のFIX値の誤差

FIX状況

このグラフの右側の基準局からの距離が10km程度までは数cmの誤差で一定ですが、それより距離が大きくなるに従い、誤差が大きくなり、また変化が激しくなっています。
特に距離が100㎞になると上下方向は50cm程度の誤差にもなっています。
それに比べ、東西、南北方向の誤差は10cm程度の範囲に収まっています。
100㎞を超えても東西、南北方向は誤差が数cmの場所もあり、一律に距離が増えれば誤差も増えるとは言えないかもしれません。
今回の測定は移動しながらの測定であり、各地点での誤差は1回の測定ですので、あまり確かな事は言えません。
距離が離れていても誤差が少ないのは、衛星の配置や電離層の状態などにより、たまたま少ないだけだと考えた方がいいと思われます。

●三木-(名神)-彦根IC間のFIX値の誤差

FIX状況

このグラフでも東西、南北方向の誤差は10cm程度の範囲内ですが、上下方向は30cm程度と上下方向は誤差が大きくなっています。

●彦根IC-(名神)- 三木間のFIX値の誤差

FIX状況

このグラフでは東西方向の誤差が120kmを超えた地点では20㎝と大きくなっていますが、100km以内では10cmの範囲内です。

上下方向も30cm程度ですが、注目したいのはグラフの右端の三木東ICの両側での誤差の変化です。
三木東ICの右側は一般道で、左側は高速道路で、高速道路では上下方向の誤差が急に20㎝と大きくなっています。
「岡山IC-(山陽道)-三木間」のグラフではそのような事はありません。
「三木-(名神)-彦根IC間」のグラフでは残念ながら一般道の部分のデータが無く確認できません。
何故、高速道路で誤差が急に大きくなるかですが、一つ考えられるのは、一般道と高速道路ではドップラー効果の違いにより、ZED-F9Pでの演算に何らかの影響を与えたのではないかと推測されます。
この高速道路で上下方向の誤差が大きくなるというのは、他では聞いた事がありませんので確率は低いですが、興味深い現象だと思います。
因みに、今回使ったZED-F9PのファームウェアのバージョンはHPG1.13です。

[感想]

基準局をどうするか考えなくても、携帯電話がつながれば、何処でもセンチメータレベルの精度が得ら
れるソフトバンクのサービスはやはり安心できます。
無料のrtk2go.comのNTRIPキャスタは時々データが来なくなる場合があり、信頼性にかけます。
また、自前で基準局を設置した場合も安定して動かすのは結構難しいと思います。
用途にもよりますが、予算があれば基準局としては最初の選択肢になると思います。

(掲載日:2020-10-2)