みちびき L6バンド/NEO-D9Cの受信強度がアンテナの高さにより大きく変化する

みちびき(QZSS)衛星のうち、3号機は静止衛星なので、3号機からの電波の受信強度はほぼ一定です。
下のグラフは、NEO-D9Cで受信した、24時間のL6バンドの受信強度で、横軸は秒数、縦軸はC/N0値です。
赤紫のラインが3号機で、40dBHzでほぼ一定です。
他のラインは準天頂軌道の衛星で、軌道により高度や距離が変わってきますので、受信強度も変化します。

弊社で販売しているアンテナは仕入れ時に正常に動作するかテストをしていますが、その際、アンテナの高さにより受信強度が大きく変わる事があり、一定の高さで測定する必要がありました。
動作テストは一定の高さで行えばいいのですが、疑問として何故変化するのか気になりました。

それで、伸縮ポールの先にアンテナを載せて、高さ毎の受信強度を測定しました。
伸縮ポールは約5m変化できるものを使いました。
次の画像はその伸縮ポールとアンテナで、最も縮めた位置で、地上高は5.14mです。

測定方法は当初、次の構成で行いました。

アンテナからの信号はスプリッタで分けて、ZED-F9PとNEO-D9Cに供給します。
NEO-D9CからのCLAS補正データはUARTでZED-F9Pに供給し、ZED-F9PでCLAS測位を行います。
パソコンでは1秒毎にNEO-D9Cからの受信強度を取得し、その時の高さデータをZED-F9Pから取得し、ファイルに保存します。
アンテナの高さは、最初に一番高くまで伸ばし、その後、一定の高さで10秒ほど保持した後、数センチ伸縮ポールを下げるという操作を繰り返すことで変化させました。

次のグラフは、その結果で、アンテナはBT-345AJを使っています。
この結果を見ると何か不自然です。

CLAS測位による受信強度測定 アンテナ:BT-345AJ

それで、時系列のデータを見てみたところ、高さの変化がスムーズでないので、グラフにしてみたのが次のグラフです。
134mから131mへの変化は30秒ほどの間に起きていて、実際のアンテナ高の変化とは全く違います。
ZED-F9Pの測位状況はFixの状態であり、Fixしていてもこのような異常があるのはCLAS測位の問題かデータの取得プログラムのバグなのか良く分かりませんが、別の問題もあります。

一部を拡大すると次のような変化となっています。
本来はスムーズに下がっていく筈なのに、鋸刃状に段階的に下がっていってます。
CLAS測位の高さ精度は、静止の場合6cm(RMS)、移動体の場合12cm(RMS)程度なので、その範囲内に収まっているようですが、今回のような用途には使えない事が分かりました。

高さの精度が必要な事が分かりましたので、RTK測位で行ってみました。
次の図はその構成図です。
RTKの基準局からのデータを取得するため、弊社のM5F9PとM5Stackを組み合わせた受信機を使用しました。

次の図はRTK測位でアンテナ高を測定したデータで、CLAS測位と違いスムーズな変化であり、実際の動きを捉えています。

この方法で受信強度を測定した結果が次のグラフです。
10dBHz以上の変化があり、それも高さが13cmほどの周期で細かく変化しています。

RTK測位による受信強度測定 環境:住宅街 アンテナ:BT-345AJ

NEO-D9Cでは受信強度が38dbHz以上あればエラー無しでCLAS補正データが取得でき、35~38dBHzだとエラー訂正がされて補正データは利用可能です。
このグラフを見ると35dBHzを下回っている高さも結構存在するので、高さによってCLAS測位ができたりできなかったりする可能性があります。
ただ、NEO-D9CはCLAS受信回路は2チャンネル装備していて、受信状況のいい衛星を探索して使用しますのでそれほど問題ないのかもしれません。

受信強度が変化する理由として考えられるのはマルチパスです。
アンテナは2階のベランダに設置してあり、隣家の屋根からの反射波が十分考えられる環境です。
それで、できるだけマルチパスが少ない環境でテストしてみました。

測定場所は兵庫県三木市にある三木総合防災公園の駐車場で行いました。
伸縮ポールはアマチュア無線の移動局用のもので、タイヤの下に敷く金具も付属していて、このような測定にはうってつけです。

次のグラフはこの駐車場での測定結果です。
私の予想では受信強度はほぼ一定だと思いましたが、約5dBHzの変化があります。
ただ、35dBHzを下回る事はなく、CLAS補正データの受信上の問題は起きていません。
波状の周期はベランダの時とあまり変わっていない感じですが、波の最大値はほぼ一定の41dBHzで、ベランダではかなり変化しているのと対照的です。

RTK測位による受信強度測定 環境:広い公園の駐車場 アンテナ:BT-345AJ

ベランダでの測定と比べると、受信強度の変化が少なくなって、変化の仕方も一様になっていますので、変化の原因はマルチパスの可能性が大きいと思われます。

以上、NEO-D9Cを使ったCLAS補正データの受信では、受信環境により受信強度が大きく変わる事を念頭に置いておく必要があると思います。
今後の課題として、これらの受信強度がFix率にどの程度影響するのか調べたいと思っています。